戸栗美術館 古伊万里の御道具-茶・華・香-展

豊かな文化を育む、渋谷区松濤にある美術館

戸栗美術館 中庭 東京を代表する街の1つ、渋谷にある戸栗美術館は、にぎやかな駅前から徒歩15分ほどの閑静な住宅街の中にあります。レンガの建物が和モダンでお洒落、落ち着いた雰囲気がとても素敵な美術館です。今回は戸栗美術館で開催された「古伊万里の御道具―茶・華・香―展」に訪れました。古伊万里というと食器を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、こちらの展覧会ではいけばなや茶の湯、お香のための道具としてつくられたものが紹介されているそう。自分には少し敷居が高いかも…?と心配しながらも、陶磁器好きな私は期待に胸を膨らませながら足を運びました。※2021年1月現在会期は終了しています。

 

戸栗美術館と古伊万里

 戸栗美術館は国内では貴重な陶磁器専門美術館として知られており、1987年に旧鍋島藩屋敷にあたる渋谷区松濤に創設されました。創設者である戸栗亨氏が収集した陶磁器を中心に保存・公開しており、中国や朝鮮、伊万里焼、鍋島焼などの陶磁器やそれに関連した古書画など約7000点ものコレクションは大変貴重な物ばかりです。ちなみに、美術館のシンボルマークは、古伊万里の「染付 竹虎文 捻花皿」という作品に描かれた虎が使われているそう。今回の展覧会の主役である古伊万里は“伊万里焼”という種類の焼き物の中の1つで、主に江戸時代につくられたもののことをいいます。

伊万里焼とは江戸時代初頭から肥前(現在の佐賀県、長崎県の一部)で生産された磁器のことで、当時伊万里港から国内外に積み出されていたことからこの名で呼ばれるようになりました。古伊万里のもつ魅力は、生産地で採れる陶石を用いた滑らかな白い地肌と藍色の染付や赤や金などを用いて施された美しい絵柄。色彩豊かな装飾もよく知られている伊万里焼ですが、今回の展示では、そのイメージとはまた違った素朴でダイナミックな味わいをもつ初期の古伊万里も多く展示されているのが印象的でした。また、茶の湯やいけばななど日本の伝統的な文化の中で使われた古伊万里の御道具たちは注文を受けて1つ1つ趣向を凝らしてつくられたものが多く、優れた作品が多いのだとか。陶磁器好きな方は否が応でも期待は高まりますよね。

染付吹墨月兎図皿

 

<染付吹墨月兎図皿>

江戸時代前期につくられた初期伊万里の皿

出典 国立文化財機構所蔵品統合検索システムhttps://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/G-5788?locale=ja

 

色絵荒磯文鉢


<色絵荒磯文鉢>

江戸時代、元禄期につくられたとされる鉢

出典 国立文化財機構所蔵品統合検索システム https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/G-5851?locale=ja

緻密に彫られた龍の鱗・鷺の羽に驚く「青磁瑠璃銹釉 鷺龍文 三足皿」

 戸栗美術館さんの建物はさほど大きくはないのですが、1・2階合わせて全部で5つの展示室があります。館内は品のあるゆったりとした雰囲気で、受付横のロビーからは美しい庭園が望めます。展覧会鑑賞の合間にお庭を眺めながら、ソファーでゆったりくつろいでいる方もいらっしゃいました。さて、主に茶の湯の御道具を紹介している展示室で気になったのは「青磁瑠璃銹釉 鷺龍文 三足皿」という作品。3つの足によって支えられたお皿の中心には2羽の鷺が浮き上がるように彫られ、周囲にはぐるりと渦文の雲や龍が施されています。こちらのお皿は菓子鉢として使われていたと考えられているそう。他の展示品と同じ素材(磁器土)でつくられているとは感じさせない色や質感に驚きました。高い装飾性が目を惹く造形美の中央に、どこかのんびりとした鷺の表情がとても愛らしく、こちらの品でもてなしを受けたであろう客人の感動に思いを巡らせます。

小さな作品にただよう優雅さ「染付 孔雀形香合」

 個人的な思いで恐縮なのですが、私は“香合”というものがとても好きです。香合とは、香を収納する蓋つきの小さな容器のことで、古来よりさまざまなデザインのものが生れました。作り手の個性が現れる形、透かし彫りや繊細な絵柄など、みていてとても心が躍る存在です。こちらの香合も小品ながら、染付によって施された孔雀の尾羽や冠羽が優雅で幻想的。ところで同じように染付のみで絵柄が施された作品たちでも、モチーフや制作者によって「藍色」の雰囲気ががらりと変化するのは本当に不思議です。古伊万里に限ったことではないのですが、古い陶磁器の小さく華奢な部分、例えば器の取っ手などが長い年月を経てもなお綺麗に残っていたりすると、人から人へ大切に受け継がれてきたことが感じられてなお一層感動するものですね。

「古伊万里の御道具―茶・華・香―展」を観て

 伊万里焼はつくられた年代によってさまざまな特徴があるのですが、華奢で薄い地肌と華やかで緻密な絵柄の焼き物というイメージを持たれることも多いように思います。しかし今回の展示で気になった初期の古伊万里は、厚みがあるために歪みやヒビが生じたり、制作の段階で作り手の指の跡が残るような作品たち。それらの特徴がかえって、おおらかで伸び伸びとした古人のエネルギーが感じられ大変味わい深いものとなっているように思えました。学術的にいうと創業初期の古伊万里は、まだ技術が未熟であったために歪みやヒビが生じ、絵柄の種類も限られていたとされています。しかし技術が進歩した現在でも、初期の古伊万里がもつ魅力や素晴らしさはまったく色あせることはありません。名作や優品と呼ばれるものは技術の進歩とはまた違ったところにも生まれるのかもしれませんね。

瑠璃地染付蓮図水指
<瑠璃地染付蓮図水指>

初期伊万里の水指

出典 国立文化財機構所蔵品統合検索システム

https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/G-5854?locale=ja

 

さいごに

 当時の文化人に特注されてつくられた古伊万里の御道具たちは、どれも素朴でありながら壮大な創造性が感じられる素晴らしい品々ばかりでした。江戸時代という、遠い昔の作り手の思いは時代を超えて心に響くものだと改めて感じることができました。これらの作品を鑑賞する機会があれば、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

公共財団法人 戸栗美術館
〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-11-3
Tel.03(3465)0070
HP:http://www.toguri-museum.or.jp
Twitter:https://twitter.com/toguri_museum
Instagram:https://www.instagram.com/toguri_museum/
交通渋谷駅ハチ公口より徒歩15分  
京王井の頭線神泉駅北口より徒歩10分

開館時間※2021年9月30日最終更新
10:00~17:00

毎週金曜日・土曜日 夜間開館
10:00~20:00

入館は閉館時刻30分前まで
休館日毎週月・火曜日(祝日の場合は開館、月・火曜日両方祝日の場合のみ翌平日休館)
展示替え期間中 年末年始
※上記は2022年1月時点のものですので、開館日時など変更になる場合があります。

古伊万里の御道具―茶・華・香―展
会期 2021年9月30日(木)~12月19日(日)※現在終了


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