ザ・フィンランドデザイン展
渋谷区にあるBunkamuraにて「ザ・フィンランドデザイン展」が行われました。フィンランドで誕生した有名なものとしては、テーブルウェアを多く手がけるアラビアやイッタラ、雑貨や服飾ではマリメッコが有名。小説・絵本「ムーミン・シリーズ」の生みの親トーベ・ヤンソンもフィンランド出身です。特に私はデザインに造詣があるというわけではありませんが、どれも自宅に少しずつ所有していることに気付き、今回足を運んでみることにしました。果たしてフィンランドデザインの素晴らしさとは?
森と湖の国フィンランドで育まれたデザイン
展示が開催されたBunkamuraは1989年に創設された日本で初めての大型複合文化施設。その中でザ・ミュージアム(美術館)はB1Fにあります。入り口近くには、Nadiffというアート関連の書籍が充実しているお店もあり、展示空間はそこまで大きくないものの、芸術にたっぷり触れることができる場所なのです。今回の展覧会は、1930年~1970年代におけるフィンランドのデザインを網羅的に紹介するというもの。1917年にロシアから独立したフィンランドは、時代を駆け抜けるように先進的なデザインを次々と生み出しました。フィンランドという国は森や湖が人々の日常に溶け込んでいる国として知られており、自然に囲まれながら身体を休める「フィンランド式サウナ」が何世代にも渡り愛されているそう。私たち日本人が露天風呂を気持ちよく感じるのと何だか似ていますよね。そんなフィンランドで誕生したデザインは、自然への敬意や親しみに満ちています。それが日本でも共感を呼び、長く人気が続いている秘密かもしれませんね。「ザ・フィンランドデザイン展」で音声ガイドを務めたのはフィンランドと深い関わりをもつミナペルホネン・デザイナーの皆川明さん。今回気になったものたちを、皆川さんのお話も少しだけ織り交ぜながら紹介したいと思います。また、Bunkamuraでは2022年9月にイッタラ創立140周年を記念して「イッタラ展」が開催されるそう。今回の展示を見逃した方は、ぜひ足を運んでみてくださいね!
フィンランドを代表するメーカー、イッタラの<サヴォイ>
イッタラは、フィンランドの小さなガラス工場で誕生したブランド。シンプルで洗練されたデザイン、そして使いやすさから世界中で人気があり、私自身もいくつか所有しています。使い勝手よりも装飾性が重視されていた時代に、機能的で美しいものを生み出したのがイッタラ!当時“機能的で美しい”価値観を提案した功績はとんでもなく大きいと思います。今回、メーカー創業初期の作品を観ることができたのですが、展示物を観るというよりは、ついつい「あ、このお皿欲しい。」なんて買い手目線で見てしまいました。さらに、フィンランドを代表するデザイナー・建築家のアルヴァ・アアルトがデザインした有名な花入れ<サヴォイ>もお目見え。こちらは現在もイッタラで販売されているものなのですが、かつては「木型」を使って制作されていたそうで、皆川さんによると木型が使われていた時代の<サヴォイ>は独特の魅力があるとか。確かに、展示場でみた初期のサヴォイは、炎が揺らいでいるような水や氷を思わせる有機的な質感が感じられました。
皆川さんも愛用!アルヴァ・アアルトの<41アームチェア パイミオ>
アルヴァ・アアルトは「この人なしではフィンランドデザインを語れない!」と言われるデザイナー。今回は彼がデザインした椅子も観ることができました。サナトリウムのためにつくられたその椅子は、結核患者の人が立ち上がりやすく、呼吸しやすい角度にデザインされているそう。木を曲げてつくられており、ほっとするような温かみを感じました。経済が大きく成長する中で、エネルギーあふれるデザインが生まれたことは日本が辿った歴史と似ていると感じたのですが、社会的少数者に配慮するデザインという点ではフィンランドの方が早く、ごく自然に取り入れていたというところでしょうか。そして、なんと<パイミオ>は皆川さんも愛用しているそう!皆川さんがアルヴァ・アアルトについて語る言葉には、彼の仕事や思いを丁寧に読み解き、深く尊敬していることが伝わってきました。
個人的に気になったドラ・ユング
個人的に気になったのはドラ・ユングの作品です。フィンランドのデザインは長く寒い冬を快適に過ごせるよう、明るい気持ちにさせてくれるようなものが多く、特にフィンランド発の有名なメーカー「マリメッコ」は有機的で大胆、鮮やかなカラーを使うイメージ。一方、ドラ・ユングのテキスタイルは、どことなく素朴で控えめです。しかし、ニシンやりんご、樹皮などフィンランドの資源にインスピレーションを受けのびのびとした線を用いて制作された作品達を観ると、彼女だけの方法でフィンランドを愛し、その気持ちを表現したのだと気づきました。
展覧会を観て
こちらの写真は、会場内にある写真撮影可のスペースで撮影したものです。フィンランドの楽しくも美しいデザインの雰囲気が感じられるかと思います。今回の企画展ではフィンランド全土の博物館・美術館、さらに個人コレクターから集められたおよそ250点の作品が集まった貴重な機会でした。驚きだったのは、テキスタイルや工芸などどの分野でも女性が活躍していたこと!そして、1つ残念だったのは作家トーベ・ヤンソン関連の作品が少なめに感じたことです。私自身彼女が好きだからということもありますが、もう少し原画など観られたら良かったですね。ただ、トーベ・ヤンソンの作品解説の中にあった一文が心に残りました。それは、ムーミン一家のお話の1つ「ムーミン谷の彗星」は広島・長崎の原爆を意識して創作されたものだということ。このお話は、私自身幼少の頃に読んだ名作です。帰宅後にもう一度読んでみようと思いました。
最後に
使いやすく、ほっと明るい気持ちになれるようなフィンランドのデザインは、そこに住む人々の哲学が現れているように思えます。今回の展示を観てフィンランドという国にも大きな興味が湧いた人も多いのではないのでしょうか。
ザ・フィンランドデザイン展 ― 自然が宿るライフスタイル
2021/12/7(火)~2022/1/30(日) ※1/1(土・祝)のみ休館
10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
・2021年12月31日(金)は18時閉館/最終入館17時半
※既に終了しています。
Bunkamura
〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
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交通アクセス
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