ワタリウム美術館「アイラブアート16 視覚トリップ展」
ワタリウム美術館は渋谷区にある私設美術館で、現代アートを中心に国内外の貴重な作品を公開しています。多くの美術館は、国や自治体などからの公費によって運営されていますが、なんとここワタリウム美術館はスポンサーに頼らず個人で経営されています。ノー・スポンサーならではの企画・作品セレクトの自由さが魅力といえます。今回はこちらで開催されている「視覚トリップ展」に足を運んできました。
1.知る人ぞ知る、ワタリウム美術館とは?
1990年9月に誕生したワタリウム美術館は、現代アートに力を入れ、建築や写真、映像、デザインなどの幅広い領域の作品を取り扱っている私設美術館です。公開している作品はもちろんのこと、1Fにあるミュージアムショップや地下にある書店も見逃せません。今回訪れた「アイラブアート16視覚トリップ展」では、アンディ・ウォーホルやヨーゼフ・ボイス、キース・へリングなど現代アートに興味のある方であれば、きっとどこかで目にしているであろう巨匠アーティストたちのドローイングを中心に紹介しています。さて、“ドローイング”とはいったい何なのか?と言うと、アーティストが最終的な完成作品を生み出す過程で制作されるもの。アイデアやコンセプトを練り上げるためにつくられるそうです。アーティストの“アイデアの源泉”といえるかもしれませんね。私個人が感じるドローイングの魅力として、作り手の感覚がよりリアルに、時に生々しく感じられるというところでしょうか。完成された作品とはまた違った未知のワクワク感のようなものがあります。
2.ポップアートの大御所、アンディ・ウォーホル
アンディ・ウォーホルは「ポップアート」という美術の流れを作り出した偉大なアーティスト。マリリン・モンローの顔が並んでいるもの、キャンベルのスープ缶のシルクスクリーン作品がよく知られています。今回は彼の代表作の1つである「フラワー」を観ることができました。
一見ポスターのような商業デザインを思わせるのですが、よくみると黒色の部分は紫がかった不思議な色彩。そこにマットな緑がよく映えます。雑誌等で観るだけではなかなかこのような微妙な色合いの美しさは伝わらないかもしれないですね。観る前よりも、観た後の方が断然「フラワー」が好きになりました。
また遊び心満載で、実に可愛らしいドローイングたちも夢中で眺めてしまいました。にじみのある特徴的なインクの風合いも彼が生み出した技術なのだとか。
夫婦で様々なアートプロジェクトを手掛けていたクリストとジャンヌ=クロード。私が若いころから気になっていたアーティストの1人です。彼らの作品でよく知られているものといえば“梱包”です。椅子や瓶などの日用品から、パリの橋やベルリンにある国会議事堂などを文字通り布で包んだり、島々をピンクの布で囲んだ壮大な作品を手掛けています。文章で説明するよりも写真をご覧いただいた方が、圧倒的に驚きとワクワク感があるので、興味のある方はぜひ調べてみてください。今回の展覧会も「彼らの作品をぜひ観たい!」という気持ちで訪れました。
今回展示されていた「surrounded Islands」はマイアミのビスケーン湾にある11の島を水面にピンク色の布を浮かべて囲むというプロジェクトの構想図です。
このドローイングからは、クリストの思い描いていたイメージが伝わってきて、なんとも楽しい気持ちに。公共の場所に現れるスケールの大きな彼らの作品も、いつかみてみたいです。驚きなのは、彼らが企業や政府などのスポンサーに頼らず、自分たちのドローイングなどを販売することで資金を調達していたこと。何十億ともいえる資金を自分たちの納得のいく作品制作のために用意する覚悟に胸が熱くなりますよね。当時「クリストのドローイングを購入することで、彼らのプロジェクトを応援したい。」と考えた人の気持ちがとても理解できます。
4.ずっと眺めていたい、さわひらきさんの「home」
さわひらきさんは名前だけは知っていたアーティストだったのですが、本物の作品を見たのは今回が初めて。自らの心の風景や記憶の中にある感覚を映像作品などで発表されている方のようです。今回展示されていた「home」は、彼の生まれ育った実家がなくなることをきっかけにつくられたという作品。ゆらゆらとどこか頼りなげな布地の上に家の中(作者の実家?)が映し出されています。作品紹介を拝見しながら「何が起きるんだろう…」としばらく身構えていてもノスタルジックな家の映像が映し出されるのみ。
不思議な心地良さを感じつつ、作品の横を通った瞬間に驚きました。なんと映像が映し出されていた布の裏側にも映像を発見!そちらも同様に家を映す映像が流れていましたが、大きく違うのは家の中に飛行機が次々と飛び交う姿があったこと。現実とイメージが背中合わせで存在し、なかなか粋な演出だと思いました。
5.今回の展示を観て
ワタリウム美術館は良い意味で美術館らし過ぎないところが魅力。不思議と公立の大きな美術館よりも作品を近くに感じることができるので、アートとゆっくり向き合うにはぴったりの場所なのです。館内の写真をご覧頂ければ分かるように、天井にパイプが張り巡らされていたり、板張りの趣のある床だったりとまるで館内は隠れ家のよう。先ほどご紹介した世界的に有名なクリストの作品も、よく見ると凸凹した壁にかけてありましたね。
今回の企画展で感じたことは、企画された方の力量が素晴らしいのはもちろんのこと、ドローイング作品とワタリウム美術館の相性の良さでした。巨匠アーティストたちの作品を近寄りやすい距離感で楽しませてもらえたように思います。さらに、美術館のミュージアムショップも見逃せません。バッグや文房具、書籍も素敵な物が揃っているのですが、特にテーマ別に分けられて展示されているポストカードコーナーは時間を忘れて眺めていられるほど素晴らしいものばかり。今回は、友人へのバースデーカード用に何枚か購入しました。
ワタリウム美術館は、アート好きな方に愛される珍しい私設美術館。混雑していることも比較的少ないため、作品を独り占めするような贅沢な気分を味わえる場所です。ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。
〇美術館情報
「アイラブアート16視覚トリップ展」
ウォーホル、パイク、ボイス 15人のドローイングを中心に
会期 2022年1月22日(土)〜 5月15日(日)
休館日 月曜日
開館時間 11時より19時まで
※変更になることがありますので、訪れる際は事前に美術館HPをご覧ください。
ワタリウム美術館
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6
TEL 03-3402-3001 FAX 03-3405-7714
公式HP watarium.co.jp
<アクセス>
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