わずか5年間の流行。浮世絵「光線画」とは…?太田記念美術館「闇と光」展

 はじめに

 大田記念美術館は私が好きな美術館の1つで度々足を運んでいます。こちらは渋谷区原宿の賑やかな通りをやや逸れた場所にある小さな私設美術館なのですが、浮世絵愛好家の間では大変よく知られている場所です。ユニークな切り口で浮世絵を紹介する企画展が年間を通して開催されています。

「浮世絵がみたい!」そんな時には太田記念美術館 

 太田記念美術館は、かつて東邦生命保険相互会社の社長を務めていた太田清藏が収集した約12,000点の浮世絵コレクションを、保存・公開するために設立された美術館です。

太田記念美術館案内

特徴は浮世絵創世記から終焉までの歴史を辿れるような網羅的な作品が揃っていること。さらに、美人画などといったテーマを決めずにさまざまなジャンルの作品を所蔵していることもポイントです。葛飾北斎・歌川広重・歌川国芳・東洲斎写楽など有名な絵師の作品も勢ぞろい。かの有名な葛飾北斎の「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」もコレクションしています。

冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏

「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」葛飾北斎 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

館内は石庭や畳のスペースもあり、趣のある落ち着いた雰囲気。「浮世絵がみたくなったらここ!」と自信を持っておすすめできる素晴らしい美術館です。

大田記念美術館のTwitter 

 大田記念美術館は、他の美術館と同じく公式Twitterで展覧会の見どころや開館情報などを紹介しているのですが、他にも浮世絵に関する豆知識や思わず笑顔にさせてくれるようなお話もつぶやいています。浮世絵への情熱と愛が感じられるその内容のおかげか、国内にある美術館の中で有数のフォロワー数を誇るアカウントとなっているようです。

今回訪れた企画展「闇と光」

 浮世絵といえば、人物や風景を縁取る「繊細で美しい線」が印象的です。美術の言葉ではアウトラインと呼ばれるものですね。現在では世界的に人気のある日本のアニメーションにもその魅力は受け継がれていると個人的には思います。

三代歌川豊国

「三代歌川豊国」 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

しかし、今回の展覧会でスポットライトが当たったのは「光線画」と呼ばれる浮世絵作品たち。これは線を省略またはできるだけ少なくし、光や影・色の変化によって表現する方法です。およそ150年前の明治時代、浮世絵師である小林清親が西洋から伝わった写真・油彩画・石版画などの要素を浮世絵に取り込んだことからスタートしたそう。鑑賞する前は、線ではなく色の移り変わりで事物を描いた光線画について「色のグラデーションの美しさが際立つ作品なのだろう。」と予想していたのですが、本物を見ても特にそういった印象は持ちませんでした。ただ、空のうつろいや人のいない気配、郷愁のようなものがにじみ出ていて、明治時代までの浮世絵とは異なる空気感を感じました。華やかで勢いのある文明開化の時代を光線画でノスタルジックに描いたことは、小林清親のもつ社会への眼差しだったのかもしれません。

浮世絵版画/日本橋夜

「浮世絵版画/日本橋夜」小林清親 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

同じ板木でも摺りが異なる“摺り違い”

 同じ版木(図柄が彫られた木)が使われていても、摺り(版木に絵具を広げて紙に写すこと)によって作品の雰囲気はかなり変わります。例えば、夕方~夜の時間帯に現れた雷を描く「今戸有明楼之景」(小林清親)という作品は、同じ版が使われた作品が2点出品されていましたが、見比べてみると空の明暗や雷の形・明るさも違ってみえることから作品から受けるイメージも異なります。同じように摺り違いで2点出品されていた両国の火災を描く「明治十四年一月廿六日出火 両国大火浅草橋」(小林清親)では、それぞれ燃え上がる炎の大きさが異なり、火事そのものの規模が違うようにすら感じられます。このような摺りの違いによる面白さは浮世絵ならでは。ちなみに何度も摺っているうちに版である木が痛むことから、より早く摺った作品の方に価値が出るそうです。

浮世絵にニス?

 今回の展示にはニスを施す「ニス引き」という技法が使われた珍しい作品「亀戸梅屋敷」(小林清親)が出品されていました。これにはニスの効果で作品が油絵のように見えるという狙いがあったそう。ニス引きされた作品がどんなものか一言で表すのは難しいのですが、浮世絵のもつすっきりとした色合いが、こってりとした雰囲気に変化しているといった具合でとても面白い技法だと思いました。同じ版でニス引きされたものとそうでないものを見比べられたので分かりやすかったですね。ただ、油絵に似ているか?と問われると正直難しいところです。

お洒落な手ぬぐい専門店「かまわぬ」

 受付周辺には太田記念美術館のオリジナルグッズが販売されていますが、他美術館に比べて種類はやや少なめといった印象。しかし、建物地下には「かまわぬ」という主に手ぬぐいを取り扱うお店があります。手ぬぐい以外にも季節に合わせた質の良い小物などが揃っていて、ついつい立ち寄ってしまう素敵なお店です。

かまわぬ入口階段かまわぬ入口

展覧会を観て 

 毎回興味深い切り口で展覧会を開催されている太田記念美術館。訪れたのは平日の昼間でしたが比較的来館者も多かったです。光線画はもちろんのこと、今回驚きだったのは作品の摺り違いによる比較です。同じ版を使っていても異なる作品に見えてしまうのは面白かったですね。浮世絵に詳しい方は、作品の色合いや木目の表現など摺り師の力量による違いも把握できるのだとか。そうなると作品鑑賞もとても楽しそうですよね。小林清親以外にもあまり知られていない浮世絵師の作品も展示されていましたが、現代の人に知られずとも、当時は多くの絵師が腕を競い切磋琢磨して作品を生み出していたのだと思いを馳せました。普段から浮世絵に親しんでいる人、そうではない人、どんな層にも面白く感じさせてくれる企画はさすがでした。

太田記念美術館入口

さいごに

 個人コレクションとしてこれほどの規模で収集された浮世絵は、世界的に見ても大変貴重。日本芸術を代表する浮世絵たちを、ぜひ太田記念美術館で堪能してみてくださいね。

大田記念美術館「闇と光 ―清親・安治・柳村」
期間:2022年11月1日(火)~12月18日(日)
前期 11月1日(火)~11月23日(水・祝)
後期 11月26日(土)~12月18日(日)※前後期で全点展示替え
11月7、14、21、24、25、28、12月5、12、19-31日は休館します。
開館時間:10時30分~17時30分(入館は17時まで)
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL:03-3403-0880 ハローダイヤル:050-5541-8600
アクセス:JR山手線:原宿駅表参道口より徒歩5分 (表参道を青山方向へ進みソフトバンクの先の路地を左折)
東京メトロ千代田線/副都心線:明治神宮前駅5番出口より徒歩3分 (表参道を原宿駅方向へ進み千疋屋の先の路地を右折)

※変更の可能性があります。足をお運びの際には事前にご確認ください。


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