森美術館で楽しくアートを学ぶ!「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」

 美術館を巡る中で、他美術館で行われる展覧会のチラシをみかけることがあります。その中で最近気になっていたのは森美術館開館20周年を記念した企画展。今回はこちらに足を運ぶことにしました。

日本を代表する美術館の1つ 森美術館開館20周年記念

 森美術館は2023年10月に開館20周年を迎えます。その記念として現在「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」が開催されています。学校でお馴染みの各教科を入口として現代アートに親しもうという趣旨の展覧会だそう。セクションは「国語」「社会」「哲学」「算数」「理科」「音楽」「体育」「総合」に分かれています。出展作品約150点の半数以上は森美術館のコレクションということで、どんな作品に出会えるか楽しみです。

森美術館入口

言葉を扱ったアートたち

 国語のセクションは、文学や言語の文脈でアートを鑑賞するものが多く、読書好きな私としては大変興味深いものでした。中でも気になったのはロンドン在住・米田知子さんの作品<見えるものと見えないもののあいだ>シリーズ。心理学者フロイトの眼鏡を通して、弟子でありながらも、後に仲違いしたユングのテキストを写した写真。

米田知子作品

 もう1つはスーザン・ヒラーさんの失われていく言語をテーマとした映像作品です。地球上にあるさまざまな言語が年々消えていくという現実と向き合った作品。私自身、過去に日本語に翻訳できない外国の言葉を集めた書籍を拝見したことがあり、その際に特定の言語でしか表現できない微妙なニュアンスの言葉たちは非常に美しいと感じたことを思い出しました。

歴史とは切り離せない“死の跡” 

 展示スペースを多く確保されているように感じたのは社会です。印象に残ったのは戦争をテーマにした作品。まずはヴァンディー・ラッタナさんの<爆弾の池>シリーズです。ベトナム戦争時に米軍が行った爆撃により形成されたクレーターからできた池を写した写真です。

ヴァンディー・ラッタナ

同様に解説を読んでぞっとした作品は、ハラーイル・サルキシアンさんの<処刑広場>。静謐で淡々とした風景写真に思えますが、写真の場所は過去に公開処刑が行われたといわれる空間を撮影しています。どちらの作品も、解説を読んだ後に再び作品に目を移すと不気味な静けさが漂うものにみえてきます。

従軍画家の存在

 今回心に残ったのはディン・Q・レさんの作品で、ベトナム戦争に従軍画家として随行したアーティストたちのインタビュー映像とスケッチを展示した作品です。歴史の出来事を様々な手法で伝える作品は世の中にたくさんあり、胸を打つものもたくさんあります。ただ、私にとって最も心に迫るのは史実を目の当たりにした体験者の言葉です。従軍画家たちの言葉には重みがあ、沈黙の瞬間でさえ私達鑑賞者に伝わるものがありました。

ディン・Q・レ

深い精神性、哲学

 哲学では、韓国出身のLee Ufanさんの作品<関係項>が展示されていました。彼は石や鉄などの素材をほぼ手つかずのまま空間に展示する作品で知られており、気になっていた作家の1人です。あるがままの自然物の中に美を見出すのは、日本人の心に馴染むものがあるのではないでしょうか。静かな気持ちにさせてくれる、どこか禅の要素をもつ作品です。

Lee Ufan

日本を代表する画家・奈良美智さんの<Miss Moonlight>は大型のキャンパスに少女が描かれた作品。作品と対峙すると、少女の髪や肌からは月の光や暗闇などさまざまなイメージが浮かんできて、まるで瞑想しているような心持ちになります。

奈良美智

アートで算数を楽しむ!

 歴史・文化・人類という大きいスケールで作品を制作する杉本博司さん。注目している作家さんの1人で彼の著書も数冊所有しています。今回は<観念の形>というシリーズの1つで、幾何学模型群を撮影した作品を出品していました。杉本さんの写真は被写体の背景にある物語や美しさ、面白さを再発見させてくれる、そんな魅力があります。

杉本博司作品

もう1つ、算数のセクションに出品されていた片山真妃さんの作品。

片山作品

 特定の事象から生まれた数値を作家独自のカラーチャートや数式を使って構図や色に変換するという方法で抽象的な絵画を制作しているそう。片山さんが絵を描く、その様子をのぞいてみたいと思いました。

「理科」での嬉しい出会い

 色々な作品を鑑賞していると、何となく「自分好みの作品」というものが出てきます。今回の展示で「自分好み」と感じたものは理科のセクションに展示されていたサム・フォールズさんの作品。物理学や言語学、哲学などを学び作品をつくっている作家さんです。

サム・フォールズ

 地面に置いたキャンバスの上に植物や染料を配置して一晩放置し、植物を取り除くという過程で生まれた作品が出品されていました。画面上には靴跡や植物の影が残り、時間の流れを感じさせます。情緒的であたたかみのある素敵な作品でした。

展覧会をみて     

 教科でカテゴライズし、作品を展示していた今回の展覧会。森美術館のコレクションも多数出品されるとあって注目度も高いと予想されます。後半には「総合」というセクションがあり、ヤン・ヘギュさんの空間をダイナミックに使った作品インスタレーションは大変見応えがありました。

ヤン・ヘギュ作品

 今回紹介した作品以外にも、現代美術の世界で有名な作家さんが多数出品しています。しかし“現代美術”といっても本当に様々。すべての教科を通してみることで、「現代美術とは何なのか。」「自分にとって現代美術はどんなところが魅力なのか。」を考えるきっかけとなりそうです。

    今回の展示では森美術館が誇るコレクションを多数鑑賞することができます。ぜひ興味のある方は訪れてみてくださいね。

 

森美術館<ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会>
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F
会期:2023.4.19(水)~ 9.24(日) 会期中無休
開館時間:10:00~22:00
※会期中の火曜日は17:00まで
※ただし5.2(火)、8.15(火)は22:00まで
※「六本木アートナイト2023」開催に伴い、5.27(土)は翌朝6:00まで開館延長
※最終入館は閉館時間の30分前まで
アクセス:電車
東京メトロ日比谷線        「六本木駅」1C出口 徒歩3分(コンコースにて直結)
都営地下鉄大江戸線        「六本木駅」3出口 徒歩6分
都営地下鉄大江戸線        「麻布十番駅」7出口 徒歩9分
東京メトロ南北線        「麻布十番駅」4出口 徒歩12分
東京メトロ千代田線        「乃木坂駅」5出口 徒歩10分
※上記は変更の可能性があります。足をお運びの際には事前にご確認ください。


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