27年ぶり!近代絵画の巨匠・デイヴィッド・ホックニーの個展
若い頃からデイヴィッド・ホックニーの絵画に惹かれ、折に触れて展覧会や画集で彼の作品を眺めていました。今回、新作と共に27年ぶりに日本国内でホックニーの大規模な個展が開催されることになりました。
充実したショップや図書館が魅力。東京都現代美術館とは?
デイヴィッド・ホックニー展が開催される東京都現代美術館は、1995年にスタートした現代美術の振興を図るために創設された施設。モダンな外観で図書館も充実しており、周囲には散歩をするにも気持ちの良い公園があります。
お洒落なアート系のショップやカフェも併設されており、展覧会鑑賞以外にもたくさんの驚きと発見が詰まっている場所です。
デイヴィッド・ホックニーの衰えぬ魅力
ホックニーの大規模な個展を国内で鑑賞できる機会に恵まれるのは非常に貴重です。ホックニーは現在86歳。60年にも及ぶ制作活動のほとんどを第一線で活躍し続けています。また、油彩画や水彩画、アクリル画やコラージュ、コピー機など使用する画材もさまざま。ですが、彼は一貫して自身が体験したこと、表現したいことを的確に示せるような手法を選び取っているように思えます。今回は、なんとiPadで描かれた絵が出品されるとのこと。年齢を重ねても挑戦を続ける姿勢には圧倒されるばかりです。
インターネットや画集ではなく、「本物」を鑑賞するということ
昨今の展覧会は、写真撮影OKなところが増えているように感じます。良い情報は、どんどん共有しようといった考えが広まってきているのでしょうか。しかし、今回のホックニー展は撮影禁止のスペースも多数設けられ、作家や美術館側からの「じっくり目の前の絵と向き合って欲しい」という思いが伝わってきました。(ホックニーほどの巨匠であれば、著作権関連の問題も大きくなるという理由もあるのでしょうが…。)また、作品リストも配布していなかったことも同様の意図を感じます。
展覧会序盤に展示されていたホックニーの代表作のシリーズでもあるロサンゼルスの芝生やプール、スプリンクラーの作品群。画集等では分からなかったのですが、カラっとした雰囲気でどこか軽やかさがありました。“人の手で作られた自然”というものを表現しようとしたのかもしれませんね。
自身の生まれ故郷にある自然を描いた絵と比べると、画材の選び方や描き方にその違いが分かりやすく表れています。そちらは、四季によって変化する自然の圧倒的なエネルギーをあふれんばかりの勢いで描いているように感じました。思わず微笑んでしまったのは、彼の自画像。明るい色彩で遊び心にあふれており、チャーミングな方なのだと想像しました。
iPadで絵画!?
今や、iPadなど機械で作画するのは決して珍しい事ではありません。日本が世界に誇る漫画や繊細な商業イラストも、今やテクノロジーを駆使してたくさん作成されています。しかし、アカデミックな側面が根強い芸術作品には、まだその前例が少ないかもしれません。ですが、ホックニーは今回の展示でiPadを用いて絵画作品を制作し、大規模に発表しています。まず、目に飛び込んできたのは12枚の巨大な絵画が展示された部屋。
大型の油彩画1点、iPadで制作された51点からなるシリーズの中から選ばれた作品たちのようです。刻々と変化する季節の移り変わりを捉えています。
戸外で制作されたもので、描かれた日付も作品の横に明記されています。どの作品もパワフルでエネルギッシュ、そして自由。
次の展示室にあったのは、近年のロックダウン中にiPadで描かれた全長90メートルにも及ぶ新作です。作品の隣を歩きながら眺めていくと、ホックニーの眼差しを疑似体験できるように季節が巡っていきます。
「レモンが可愛い。」「お花好き!」「ここで写真撮りたいー。」など子供たちも楽しそうに見ていました。素直な心で絵画を楽しむ姿が微笑ましく思います。
6枚の画像が映し出されているスクリーン。作品が描かれていく過程を観ることができます。これはiPadならではの試み。白い画面からだんだんと作品が仕上がっていく様子につい見入ってしまいます。
それにしても、パワーあふれる絵画作品を鑑賞していると、本当にストレス解消になります。芸術は鑑賞者の人生に自信を与えてくれるものなのですね。
MOTコレクション展
5700点を誇る東京都現代美術館の所蔵作品。定期的に作品の展示・入れ替えを行っていますが、今回は「被膜虚実」というテーマのもと、作品が公開されていました。
オノ・ヨーコさんの作品。時に唐突ともいえる、詩的でシンプルな彼女のメッセージは、鑑賞者の人生に直接語り掛けてくるような強さがあります。
名和さんの彫刻作品です。本物の剝製が目の前にあるのにも関わらず、表面がみえてこないという矛盾ともどかしさ。ですが、幻想的なクリスタルビーズに魅せられて不思議と心地よさも感じます。
フィギュアやおもちゃを積み上げて、白い樹脂?のようなものを流して固めた金氏さんの作品。まさに“被膜”によって景色が変化し、物体がもつ意味すらも消失してしまうような面白さです!
展覧会をみて
さまざまな画材や最新機器を使って作品制作に取り組んでいたホックニーですが、制作姿勢は一貫しているように感じました。それは「具象的な表現を通して身近な日常を描く」ということ。非常にシンプルなスタイルです。そして、過去に成功した同じ形式に固執することなく、新たに挑戦することは並大抵のことではありません。ありあまる情熱とアイデアがなければ成しえないことです。特に今回初公開されたiPadの作品は斬新で文句なく面白かったです。間違いなく美術史に大きく貢献した作家であり、今後もホックニーがどんな作品を生み出すか楽しみになりました。
27年ぶりとなるホックニーの個展は、普段美術に触れる機会が少ないという方でも楽しめる内容だと思います。特にiPadを使って描かれた絵はユニークな試み。是非足を運んでみてください。
<デイヴィッド・ホックニー展>
東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4丁目1−1
会期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)
開館時間:10:00〜18:00 展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、展示替え期間、年末年始
アクセス:東京メトロ半蔵門線「清澄白河駅」B2番出口より徒歩9分
都営地下鉄大江戸線「清澄白河駅」A3番出口より徒歩13分
東京メトロ東西線「木場駅」3番出口より徒歩15分、または都営バスで「東京都現代美術館前下車
都営地下鉄新宿線「菊川駅」A4番出口より徒歩15分、または都営バスで「東京都現代美術館前」下車
※上記情報は変更の可能性があります。足をお運びの際は事前にご確認ください。