1年の終わりを国宝とともに…。三井記念美術館
年末年始になると日本橋にある三井記念美術館では、国宝<雪松図屏風>が毎年公開されます。これから始まる本格的な冬を予感させる、素敵な試みですよね。「今年こそは、ぜひ足を運びたい!」と思いながらも実現しなかった<雪松図屏風>の鑑賞。ついに2023年の冬、訪れることができました。
三井記念美術館と展覧会について
三井記念美術館は、日本や東洋の美術作品を保存・公開している三井文庫別館が日本橋に移転後、2005年にスタートした美術館です。こちらの美術館では、三井家が江戸時代から収集し続けた美術品およそ4000点を所蔵しています。約半数が茶道具で、その中には国宝6点・重要文化財75点が含まれています。今回の企画展「国宝雪松図と能面×能の意匠」では国宝<国宝雪松図>と共に美術館が所蔵する能面や能装束、能に関連した美術品などが出品されています。
重要文化財でもある洋風建築
1998年に重要文化財として指定された美術館の建物は、昭和初期の雰囲気を色濃く残す洋風建築です。“西洋”を意識した重厚な建物は当時の日本が諸外国に強い憧れを持ちながらも、ものづくりにこだわったことが垣間見える大変趣のある建物です。
建物の入口は現代的なビルといった雰囲気。
エレベーターは、近年の建築物ではなかなか見られないデザインです。
世の中のデザインや建築に流行というものがあっても、良いものは後世に残していって欲しいものです。
美術館入口に進むと様子ががらりと変わり、昭和初期のかおりが残る洋風の展示室に進みます。
鑑賞しきれないほどの見応え。能面
今回大変見応えがあったと感じたのは、展覧会の目玉でもある能面たち。残念ながら写真撮影不可でしたが、日本古来の美的感覚・そして圧倒的な技術力に驚きを隠せませんでした。人間の心の機微、時に激しい感情を確かな観察力と想像力で表現した能面たちには息をのむほど。驚くべきことに、能面の黒眼の部分をくり抜いた孔(演者が能面をつけて演じるためにつくられたもの)の位置や大きさによっても能面の持つ表情が変わります。美術館の展示空間ではなく、実際に能の舞台で使われている時、さらに演者さんによって魂が吹き込まれるのだろうと思います。
国宝<雪松図屏風>
雪の白さや儚さ、そして松のもつ素朴で精悍な質感が大変美しく思いました。<雪松図屏風>は、作品サイズおよそ155cm×362cm。
眼下に広がる雄大な情景ともいえるような迫力ですが、どこはかとない冬の寂しさや厳しさも感じられます。春、夏、秋にはない静かな時間、というのは冬ならでは。かつて日本の冬は現在よりもっと静寂に包まれていたのかもしれません。
華麗なる能装束たち
今回の展覧会では、美術館所蔵の能装束も展示されていました。能装束にはいくつか種類があり、演じる役によって使い分けられているようです。まずは、女性用の上着としてつくられた唐織。
能装束の中でも最も華やかであるといわれています。
<紅白段草花虫籠模様唐織>という作品で、ずっしりと重さすら感じる程の豪華な刺繡に目を奪われます。
モチーフとして使われているみずみずしい草花と虫籠は風情が感じられます。紅色を多用した若い女性役の装束のようです。一方、厚板と呼ばれる装束は、主に男性役の着付けとして使用されます。どちらかというと、厳かで気品あふれるものが多く、男性のたくましさを思わせます。
こちらは唐織と厚板、2つの要素をもつ厚板唐織といいます。力強さと落ち着きの中に、華やかさも漂う格調高い作品<紫地桧垣菊折枝模様厚板唐織>です。
お次は<紺繻子地雪輪松竹菊蒲公英模様縫箔>という名がつけられた能装束。縫箔とは、主に刺繍と共に金や銀箔が用いられたものです。
女性や公家、子ども役に使われるようです。紺色の地に金を摺ったような質感で竹が表現されています。蒲公英の刺繍が愛らしく、子どものあどけなさも感じさせますね。
優美で豪華な能装束たちは、こちらの気持ちまで明るくさせてくれます。
茶室「如庵」を再現
三井記念美術館の見どころの1つに、京都の建仁寺境内に1618年頃に建てられたという茶室「如庵」を再現したスペースが挙げられます。「如庵」は1908年に三井家の所有となり、1936年には旧国宝に指定されます。三井家別荘に移築された後は、1951年国宝に再指定を受けているようです。季節や企画展に合わせて茶道具を取り合わせ、決して広くはない空間に、“茶の湯の美”が詰まっています。幽玄な世界観あふれる茶室ですが、ほっとさせてくれる空間でもありますよね。
日本の伝統美を日常に!ミュージアムショップ
日本の伝統文化に関する展示を数多く企画されている三井記念美術館らしい、茶道や日本画などに関するグッズや書籍が多く取り扱われていました。季節柄、干支の小物やカレンダーなども目をひきます。カレンダーはつい間に合わせのものを使いがちですが、美術館でお気に入りを探して購入するのも素敵ですよね。
能面は室町時代につくられたものが多く展示されていましたが、大変美しい状態で保存されていることに深く感動しました。目立つ傷や汚れなどはほとんど見当たらなくとも、途方もなく長い時間を経験してきた能面たちは独特の重厚感があります。また、展示されていた能面は、重要文化財に指定されているものがほとんどで、すべてをじっくり鑑賞するには体力・時間共に足りない…。と後ろ髪を惹かれる思いでしたが、心から楽しむことができました。<雪松図屏風>では雪や松がモチーフとして描かれていますが、その奥には作者である円山応挙の自然への敬意、畏れ、そして憧れを淡々と表現しているように感じられました。円山応挙の思い描いていた冬と、現代の私たちが思い描く冬はどこが違うのでしょうか?忙しい日々こそ、圧倒的な存在である自然に向き合い、思いを馳せてみることが大切かもしれませんね。
いかがでしたでしょうか。国宝<雪松図屏風>と重要文化財である旧金剛宗家伝来能面などを鑑賞できる貴重な機会です。ぜひ足を運んでみてくださいね。
<国宝雪松図と能面×能の意匠>
三井記念美術館
住所:東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井本館7階
期間:2023/12/8(金)〜2024/1/27(土)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日
アクセス:東京メトロ銀座線 三越前駅A7出口より徒歩1分
東京メトロ半蔵門線 三越前駅徒歩3分A7出口より徒歩1分
東京メトロ銀座線・東西線 日本橋駅B9出口より徒歩4分
都営浅草線 日本橋駅徒歩6分B9出口より徒歩4分
JR東京駅日本橋口より徒歩7分
JR神田駅南口より徒歩6分
東京メトロ銀座線・東西線 日本橋駅B9出口より徒歩4分
JR総武快速線 新日本橋駅より地下直結三越前駅方向へ徒歩4分
無料巡回バスあり
※足をお運びの際には事前にご確認ください。